「………う~ん………」
手を止めて腕組みして考えに耽る。配置は装飾はこれで良いものか、本当に納得いく出来なのか。何度も己に問い掛けては頭の中で試行錯誤を繰り返すがその内ぐちゃぐちゃになってくる。
(………駄目だ。気分転換しよう……)
作りかけの建物から飛び出て外の空気を吸い込み、うんと両腕を天に突き出し伸びをする。
相棒の姿は見えない。時々様子見に来てくれているようだが今はパトロールがてらの散歩かジムかプールか、好きに過ごしているのだろう。
島は平和そのもので見上げれば小鳥が飛び立っていった姿を目にする。
彼女は海岸の方へ足を向ける。最初の場所より少し移動させている、他の島へ行ける旅の扉へ。
冒険中は手一杯で必要以外の島の開発は放置していた。終えて気持ちの余裕が出てきてからは可能なことも増えて、あれこれと創作欲が溢れてはそれをカタチにしてきた。
楽しいモノ作り、やがて島の大半は開発も終えて満足感はあれど少しやる気が萎えた気持ちも抱いたのだ。やり切ったかな……というある種の燃え尽き症候群というものか。
だから創作への刺激を求めて、ある時から行けるようになった他の島へのお出かけは己のやる気を維持する為に必要不可欠の行動だ。自分には思いもつかない素晴らしい造形や整地、効率的な素材系の生産など大変勉強になることばかりであった。
他のビルダーさんの素晴らしい腕の成果を目の当たりにすると、自分はまだまだ至らないなぁ…などと痛感し気分が落ち込むこともしばしばあるけど。
もしかしたらウチの島にも来訪者は来たかもしれないが見掛けたことはない気がする。まあいいか。
扉を潜り抜けると誰かの見知らぬ島。ここは……みどりの開拓地だろうか。扉周りは綺麗に整えられているが辺りは緑が生い茂っていてあまり手付かずという印象だ。
こっちかな、と歩いてゆく。少ししてここの農園らしき場所に出る。キラーマシンやメタルハンターが畑の世話をする姿があって何となくほっとする。
島民のみなさんもチラホラ見掛けた。自分は基本話し掛けないで見物に徹している。仕事をしているのに邪魔をしたくなかったから。
開拓地内はそれなりに整えられていたが凄く目を引かれる建造物などは見当たらなかった。別の開拓地はどうかな、と移動してみる。
あかの開拓地にやって来た。ピラミッドが見えたので先ずはそちらへ行ってみようと、近付いていくとピラミッドからシドーが出てきた。おや、ジムでもあってそこを使ってたのかな、と何となく遠巻きに眺めていたら向こうが気付いてこちらへ近付いてきた。
「………おい、オマエ……っ!」
どこの島のシドーでも基本性格に変わりないようだ。しかし相手から話し掛けられたのは初めてでやや驚きはしている。
「…なんでしょう?」
つかつかと大股であっという間に距離を詰めてきたシドーは目の前に立つ。ウチの相棒より若干身長が高いようだ。
最初目を見開いて物珍しそうに見つめられたが、理解したらしく落ち着いた雰囲気になった。
「………ああ、すまない。オマエ、オレの相棒……じゃねえんだな。他のところのビルダーか?」
「…そう、です。遊びに来て見物してたところで……」
するとシドーは腰に手を当てて逞しい胸板を張った。
「そうか! じゃあオレが島の中を案内してやるぜ。ついてこいよ」
心なしか楽しそうに、しかしこちらの返事を待たずにシドーは歩き出す。まあ……珍しいせっかくの申し出だ、ついて行こう。
あかの開拓地を見て回り、みどりの開拓地に戻ってまた見て回る。やはり際立った建築物などは見当たらず、失礼ながらごく平凡といった印象である。でも何事もなくのんびりした雰囲気は好ましいと思う。
最後にあおの開拓地へ。シドーは各開拓地を案内しながら度々解説してくれた。ここはこうやって相棒が……とかこの辺りはオレも整地に協力したなど、この島のビルダーが頑張ってモノ作りしていった様子を傍で見てきた彼は誇らしげに語ってくれる。
ウチの相棒も実はこうやって思ってくれているのかな……と思いを馳せる。
おおよそ見終わってルルキャッスルの中、一室の前まで通された。扉を開ける前にシドーは言った。
「………帰る前に顔を見てやってくれ。この部屋にオレの相棒がいる……」
そういえばこちらのビルダーさんにはまだお会いしていなかったし見掛けてもいなかったと気付いた。
扉を開けると普通の内装の部屋であった。テーブルや椅子、窓際には青いカーテン。壁側に沿ってベッドが一つ置かれている。サイドテーブルにはシンプルな一輪挿しの花瓶がある。
目を凝らすとベッドに誰か眠っていた。シドーは傍に近付き眠っている人物を見下ろす。
「………コイツがオレの相棒だ」
自分もシドーの隣に立ち顔を見る。下ろされた金色の髪を枕に広げて、自分と同じ顔の少女がすやすやと心地好さげに眠っている。
睡眠中ならば邪魔しては……と思ったがシドーは呟くように言う。
「……コイツはクリエ。オマエも同じ名前だったな。……クリエはずっとこうして眠ってる、どれくらいなのか分からなくなるほどに、な………」
「……ずっと?」
シドーは彼女を見下ろしたまま続ける。
「…世界を作り直してしばらくはコイツも充実した時間を過ごしていたと思う。だけどある日、『飽きたから少し寝るね』って告げられて眠っちまって今に至る」
「--え!? じゃあ一日どころか数日……いや、それ以上眠り続けてるの!?」
驚いてシドーの横顔を見ると何とも言い難い表情を湛えていた。
「……一ヶ月以上は経ってるな。それ以上かもしんねえが。こんな状態だけど不思議と食事は必要ないみたいなんだ」
言葉が途切れるとすぅすぅと静かな寝息が耳に入る。本当に眠っているだけなのだ。
「……起きないのは、なにか原因は分かっているの?」
「……ホッホとかに診てもらったが分からずじまいだ。起こそうと色々試してみたがダメだった……」
残念そうに首を振るシドー。自分には寂しそうに見えて気の毒でならない。
「…まるで休眠しているみたい……だね。最低限の生命活動を維持して休んでいる感じ」
「………クリエは『飽きた』って言ってた。どういう意味だと思う? オレはその言葉が関係してるんじゃねえかって考えてる」
疑問を振られて腕組みして首を捻る。飽きた……色々考えられるけど、このように眠り続けて休む程に飽きたというなら。それはもしかしたらビルダーに取っての致命的な………。
あくまで自分の主観での意見であり、彼女が確実にそうなったとは言い切れないのは確かだ。
「………わたしの意見だけど、このクリエさんはモノ作りに飽きてしまったんじゃ……ないかな」
自分のその言葉にシドーがこちらへ向く。信じられないといった表情だ。
「……そんな、ことが……あるのか……? あんなに物を作ることが大好きなヤツだったのに?」
「…そうだね。人には気持ちのムラがあったりして、好きなことがある日突然興味を失ったりやらなくなったりするんだ。ビルダーだって時に思うように出来ないことはあるもの。そんな時には気分転換したりしてまた意欲を養うものだけど……」
彼女も気分転換を図ったかもしれない、それとも思った以上に深刻な精神状態だったのか測ることは叶わない。
「………ずっと、このまんま眠り続けるのかな、クリエ………」
シドーの呟きに答えることは出来なかった。眠っている本人にしか分からない。
それから少しの間、沈黙したまま『病』に罹ってしまったビルダーを見つめていた。
お暇する際シドーは扉まで見送ってくれた。彼の相棒とそっくりの自分を、まるで久々に動いている相棒のようで嬉しかったと言って。ただの気休め程度でしかないがきっといずれ目を覚ますよ、と言葉を掛けると彼は曖昧に微笑んでいた。
「--あっクリエ! どこほっつき歩いてやがったんだよ! 探したぞ!」
自分の島へ戻り帰路へ就いているとウチの相棒とばったり出くわした。彼は頬を膨らませて声を上げる。
「…ごめんごめん。ちょっと散歩にね。なにかわたしに用事があったの?」
「あ、そうだ。チャコやペロが作ってほしいものがあるって言ってたんだ」
「そっか、ありがとう。ごめんね手間取らせちゃって」
「いいんだ。オレもオマエの姿が見えなくて、不安になったからな」
心配掛けてしまったな、と反省する。一言告げて出かけたら良かったかな。
「……今日はもう帰るのか?」
「そうだね。急いで作ってもうまくいかない時もあるから。チャコさんたちには悪いけど今日はゆっくり休むよ」
「そうか。じゃあ帰ろうぜ」
にっこり笑ったシドーに手を取られる。心配しなくてもちゃんと一緒に帰るのに。でも嬉しい気持ちが溢れて自分も笑った。
まだまだ作りたいものはあるし満足していないのだ。自分も『病』に罹らないよう気を付けていきたい。
ある日、意欲が失われて、急に瞼が落ちてきた。抗えない眠気が。
「………シドー、なんか眠くなってきちゃった……」
「お、疲れたのか。少し寝るか?」
「…………うん。……もし、また起きられたら……やるよ………オヤスミ………」
「…ああ。ゆっくり休めよ」
ゆっくり意識が沈んでゆく中、とうとう自分も罹ってしまったんだ………と、思った。
この物語に『飽きた』という、この世界に取ってまさに死に至ってゆく病に………。
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