その後、シドーとの新たな生活が始まり、やがて新しい命を授かった。産まれた愛らしい子供と対面して色々悩んでいたのが馬鹿らしいと染々思った。
その内二人目も産まれて幸せな日々を過ごしていたら、三人目を宿した。
日に日に大きくなっていくお腹、順調に育っている証だ。
傍には二人目の子が大人しく絵本を見ている。まだ理解するには幼いので絵に興味を示しているのだろう。そこに長男が近寄ってきて。
「ね、おかあさん。おなかおっきくなったね。いつうまれるのかな?」
長男は隣に腰掛けお腹へ頬擦りする。その頭を撫でてあげて。
「…そうね、もう少ししたら会えるよ」
「……ほんと? ぼくたちのおとうとかいもうとだよね。がんばってるんだよね」
「……頑張る? そうだね、一所懸命お腹の中で大きくなろうとしているね」
すると長男は顔を上げて見つめてきた。自分にもシドーにも似ている顔つきは時々不思議に感じる。
「それもあるけどね、このこもぼくたちとおんなじようにしてるんだ、きっと」
「…なに、を?」
「ぼくたちはおとうさんのちもひいてる? から、ながくいきるんだって。でもおかあさんはひとだから…ぼくたちとずっといっしょができない、だからね?」
屈託のない普段の様子と話し方の長男なのに……何故か胸がざわざわと落ち着かない。
「…ぼく、おなかにいるときにがんばってわけてたんだ。おかあさんもいっしょにいてくれるように」
「………分ける……何…を……?」
口の中が乾く。長男のつぶらな瞳の前で緊張しているのはどうして?
「…おとうさんのちから」
「--ただいま」
「--あっ、おとうさんおかえりなさいっ」
ぱあと表情を明るくさせ飛び上がるように立ち上がり、長男は駆け出して帰宅したシドーの腰元へ抱きついた。
手の平は汗で湿っていて鼓動がどくんどくんと大きく高鳴って感じる。長男の言葉はどういう意味を持っているのか。いや……理解出来ていて敢えて気付かない振りで、自分の気掛かりとそれに伴う強烈な不安を誤魔化そうとしている。
認めたくない、否定したい一心で半ば逃避の如く違うと、淡い期待へすがる母親を二人目の子…長女が赦してくれなかった。
「……もう遅い。そなたは破壊神に選ばれてしまった贄であり、寵愛の対象なのだ……。破壊神の、呪いに等しい力を与えられたからには未来永劫の刻を破壊神と共に在る他ない」
幼子の顔付きは感情が皆無で淡々と諭す。その大人さながら……それすら通り越した超然とした口振りに目を丸くする思いで、何も返す言葉は出せなかった。
長女は話し終えるとはっと気付いたように目を見開き、きょとんとした様子で見つめ返す。さっきの言葉は長女自身のものではない気がして、無断かもしれないが聞いてみようとすると。
「…ただいま、クリエ。どうした?」
長男を片腕で抱き上げてシドーが声を掛けてきた。
「とうしゃん。とうしゃん」
まだ舌足らずな言葉で長女がシドーへ腕を伸ばし反応すると、軽々と抱き上げてみせる。両腕に我が子、実に微笑ましい光景……だが、先のことが引っ掛かり胸に少し蟠りが残る。
………もう遅い、とは。言葉通りすでに手遅れ…だというのか……。
◇◇◇◇◇
「……そうして神さまのお嫁さんになった少女は末永く幸せに過ごしました…」
絵本を読み終えると孫の女の子は瞳をキラキラと輝かせ、興奮混じりに感想を述べた。
「…おもしろかった~! 神さまよかったね、およめさんといっしょに暮らせて」
「ふふ、そうねえ。神さまもずっと独りじゃ寂しいかもしれないねえ。……さ、そろそろお家に帰ってご飯食べましょうね」
「うんっ」
老婆と女の子はベンチから腰を上げて手を繋いで行ってしまった。
隣のベンチに、まだ腰掛けている男女の黒髪の男性が女性の肩に腕を回したまま囁くように口を開く。
「………全くその通り、独りはつまらんし寂しいと気付いちまったから、オマエを欲しくなったんだ」
日光に当たり輝く金色の髪を二つに縛り上げる女性の頬へ軽くキスをする。
「……それは嬉しいけど、想定外だったんでしょ? 子供たちがしたことは」
擽ったそうに受け入れて青い眼差しは赤い瞳を見つめる。
「…まあな。まさか胎児のうちからそんな芸当ができるとは。本能が理解して良かれと思ってやっただけで悪気はねえからなあ」
そして男性の口角が上がる。
「でもオレは良かったと思ってるぜ? オレが滅びない限りはオマエも永遠に一緒だからな、一蓮托生ってやつだぜ」
嬉しそうに言い放つ男性に女性は苦笑を浮かべる。
「……もう受け入れたよ。最初の内はそりゃあショックだったけど、ずっと変わらず愛してくれてるものね。十分幸せだよ」
こてんと男性の肩へ頭を乗せる。目を瞑り言葉通り幸せを滲ませる微笑みだ。
肩を抱き寄せ男性も頭を寄せて、何度も言うが…と前置きして。
「……愛してる、クリエ……」
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